• Posted 19.12.26

3回に分けて掲載した、広報コンサルタント・石川慶子氏と弊社の平尾貴治とのインタビューの最終回です。

トップと現場の乖離

石川: 私の場合、トップをトレーニングする機会が多く、そこから見えるものはあります。トップに現場感が低下している企業は危ないです。具体的に挙げると、トップが現場を軽視するようなコメントした時には、「あ、この企業危ないな」と思いますね。他人事っぽい発言とか、「それは現場の仕事だよ!」などと言ってしまう。何か自分が高いところにいるという意識の人。現場を大事にしない企業は危機的状況です。
パワーゲーム的な要素がこれまでの男性中心の日本企業には強く、その競争で勝ち上がると、もう自分は「下々とは違う」という意識になりがちです。
そうしたトップの下では現場の人も、問題が起きても「自分の問題ではない」となりがちです。不祥事を繰り返すある企業の広報の人と意見交換したことがあったのですが、本心から危機管理に興味があるというより、単にお勉強しているような感じでした。

平尾:私が組織開発の仕事をしていて、最近強く感じていることがあります。「トップと部下が見ているものが違っている」ということの理解が、まず大事だということです。だからこそ、あえて意地悪く、違いが明確になってしまうような話し合いから始めます(笑)。
普通に「うちの会社どうしましょうか」と、トップと部下と一緒に話し合っても、ありきたりの結果でまとまるじゃないですか。最初は別々に話し合いしていただくなど、違いが出ざるを得ないようにすると、初めて「こんなに違っているんだ」と気付き、そこから健全な合意形成が始まるということがあります。それは部門間であっても同じですね。

実際の不祥事からの学び

石川:公表されたスルガ銀行の不祥事に関する報告書は338ページもあり、私も何日間もかけて読みました。今時本当にこんな企業あるのかと思うくらい、びっくりしました。でもこういう企業が一つあるということは、同じような事例はかなりあるのではないかと正直思っています。
非常に印象的だったのは、社員自身は違法行為をしていないということなんですよ。でも、取引先の業者がデータを改ざんして、顧客に借りる資金力がないのに、書き換えて審査に数字を曲げたものを送っているのは分かったうえでみんな貸付をしている。「不正を行っていないのは1%」という数字に倒れそうになりました。
そんなひどいことを実行に移したのは、会社のためでもないし顧客のためでもない。ただただ上司への恐怖。胸ぐらをつかんで家族に危害を加えると言って脅迫する上司。そんなこと、今時あるのかと思う内容なのですが、それが一人ではない。たくさんの証言が書かれています。皆それを知っていて、止めない。恐いから。
同時に、どんどん売り上げが増えているから何も言えない。それがあの時のスルガ銀行の「正義」だったんです。これは極端な例と思われるかもしれませんが、大なり小なり「恐れ」によって業績を上げている企業は多いと私は思います。実際にかつてのスルガ銀行は優良企業として有名でした。

平尾:そういう意味では、組織や個人特有の「正義」の考え方自体を揺らすのが組織開発の仕事という感じもしてきました。

石川:最近ですとかんぽでも高齢者や認知症の方を対象に不要な契約をさせる不正が暴かれました。顧客を犠牲にしてでも営業成績を上げてかまわないという空気があったのだろうと思います。

平尾:そういう時、会社の中には何人かは「ちょっとおかしい」と思っている人がいたのでしょうが、どうその声を出させるかなんでしょうね。そのためには、例えば会議の中においても、「今・この場」で参加者がそれぞれどんな態度・表情・行動をしているのか。誰と誰は話しているが、誰は黙って貧乏ゆすりをしているのか。そうしたプロセス、当社は「テーブルの下」という言い方もしますが、それを意識し合うことが大切だと私は思っています。

石川:広報としても、あるいは組織開発としても、おかしいと思ったら「おかしい」と言える空気、文化を作ることが重要です。平尾さん達とはゴールは同じだと思っています。

<石川慶子(いしかわ・けいこ)プロフィール>

広報コンサルタント/有限会社シン取締役社長。
日本リスクマネジャー&コンサルタント協会理事。
東京都生まれ。東京女子大学卒。参議院事務局勤務後、1987年より映像制作プロダクションにて、劇場映画やテレビ番組の制作に携わる。1995年から広報PR会社所属。2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。以来、企業・団体に対し、平時・緊急時の戦略的広報の立案やメディアトレーニング、メディアリレーションズ、広報人材育成等のコンサルティングサービスを提供。リスクマネジメント研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱、マイクロラーニングとして学習プログラム開発。
日本広報学会理事、公共コミュニケーション学会理事。講演活動やマスメディアでのコメント多数。