事業継続マネジメントと経営

先月から「経営戦略とBCM(事業継続マネジメント)」というテーマで、BCI(事業継続を考える世界的機構)の方々などと、定期的に実施する勉強会を御一緒させていただいています。
3.11で重要性が認識されたように見えるBCMですが、未だに「防災」「情報システム」「人事」といった一部門の問題に矮小化されがちで、部門の壁を越えた施策になっていない企業も多いという問題意識から立ちあがった勉強会です。
基本的にはBCMやリスクマネジメントのご専門家が多数を占めるメンバーの方々ですが、OD(組織開発)の視点も入れたいとのことで、弊社にも声をかけていただきました。
参加者の皆さんとディスカッションをしながら、次のようなことを感じました。

 

一般に、危機状態に際しての事業継続の問題については、「連絡やチェック体制などの仕組み」と「危機に対応できる強いリーダーシップ」に光が当たることが多いようです。それらももちろん大事ですが、私は、様々な業態の企業を見させていただいた体験から、非常時に有効に機能する組織とは、平常時における次の3つの「組織の性質」に集約できるのではないかと思っています。
1、常に『組織の外部(お客様・社会)に向けての、組織としての存在理由』を明確化・共有化する努力をしている。
(そのことにより、非常時に「何を残し何を捨てるか」の優先順位をつけた迅速な行動ができる)
2、一度決めたことであっても、状況や時代の変化に合わせて、健康に疑い、場合によっては、再規定するための論議ができている。
(そのことにより、「想定外」と「想定内」との分かれ目も自由に見直すことができる)
3、仕組みやルールに頼らずとも、「これはおかしいのではないか」と感じたことを、その瞬間に互いにフィードバックし合うことができる。
(リスクの問題は、実は以前から気付いていても言えなくて放置していたためにおこるものが非常に多い)

 

皆さんの会社でもBCM(事業継続計画)お考えだと思います。そんな時、是非「連絡やチェック体制などの仕組み」と「危機に対応できる強いリーダーシップ」以外の、『平常時における組織としての質』も考えてみてはどうでしょうか。

 

 

 

平尾貴治

なでしこJAPANのマネジメント

暑い季節を更に暑くするがごとく、オリンピックの熱戦が続いている。
先日、なでしこジャパンの練習風景をテレビで行っていた。
グランドでの激しい練習は当然のこととして、ユニークだったのは、佐々木監督が選手同士のミーティングを非常に重視していたことだ。
これは、前に雑誌に載っていた佐々木監督のインタビュー記事でも読んだことがある。
かつて、スポーツの世界ではコーチや監督が絶対であり、選手に対して厳しく自分の考えを教えることが一般的だった。
しかし、試合前も、試合後も、佐々木監督は自分の考えを選手に「教える」ことを極力控えるようにしているように見えた。
代わりにやっているのは、話し合うためのベストな材料と場を与えることだった。

例えば、強豪との試合前に相手チームのVTRを見させて、まずチーム全体で全体戦略を考えさせて、次にポジション毎に詳細戦術を検討させ、更にそれを統合させていた。
あるいは、試合後であれば、勝っても負けても、その要因を徹底的に自分達で究明させていた。
多分、佐々木監督をはじめとしてコーチの方々にも、言いたいことは一杯あるだろう。
しかし、それを我慢して、「どうしたらいいのか自分達で考えろ」と突き放す。結局、グラウンドで瞬時に決断をしながら戦うのは選手自身だからだ。
佐々木監督は、そのミーティングを「意志合わせ」と呼んでいた。

我々がコンサルテーションを行うときも、いつも心がけているのは「正解を教える人」ではなく「本気の刺激役」であることだ。
時には、メンバーが「じらさないで答えを教えてください」と言ってくることもある。
もちろんこちらにも仮説はあり、場合によっては、メンバーの「主観」とこちらの「主観」をぶつけることもある。
しかし、それはあくまでも「主観」にすぎず、「客観的な正解です」と押し付けるようなものではないのだ。
なにより、メンバーが自分達で決断したものでなければ、変化する環境下で本気でやり抜くことは難しい。
佐々木監督の姿勢は、我々コンサルタントに限らず、組織の中でマネジメントを行う全ての上長に当てはまることに思えた。
よく「うちの部下は考えることができないから俺が教えてやる必要がある」という管理職の方にお会いすることがあるが、「上司が教えてやっている」から「考えることができない部下」が生まれているともいえるだろう。
そのテレビ番組で佐々木監督がこんなことを言っていた。
「あいつらは強くなった。だって、自分達で考え・自分達で決めて・自分達で実行できるんだから」
マネジメントの王道だと感じた。

 

平尾貴治

給料が上がればモチベーションって上がるの?

私達のやっている組織開発コンサルテーションは、一言で言うと「どうやって戦略をやり切る組織を創るか」という挑戦である。したがって、戦略の再構築、人事システムの変革、個人の意識・行動スキルアップなど、様々な角度からアプローチを行う。

そんな中、必ず出てくるのは「従業員のモチベーション」という当り前だが根深い問題である。
経営幹部の方には、「うちは給与や賞与を上げたので、モチベーションも上がるはずだ」とか「業績悪化に伴い賞与を減額したのだから危機感を持つはずだ」という「金銭的動機」の効果性を力説する方も多い。

 

少々前の話になるが、TEDというアメリカのプレゼンテーションイベントの中で、ニューヨーク大学教授のクレイシャーキー氏が、次のよう実験結果を紹介していた。

イスラエルの複数の保育園で、お迎えの時間を守らない父兄が多いために、「お迎えの遅刻については、10分以上遅れたら10シェケルの罰金」という規則を創り、その成果測定の実験を行った。

その結果どうなったか?
それまでは、平均一保育園あたり週に6-10人が遅刻していたのが、一気に3倍の遅刻者数に「増加」してしまったというのだ。
更に驚いたことに、12週間後に罰金制度を修了した後も、増えた遅刻者数は元に戻らなかったそうだ。
この実験の結果から、クレイシャーキー氏は次のように仮説を立てた。
「金銭的動機と内因性動機は相性が悪い。そして、一度不一致が生じると修復に時間がかかる。」

 

「戦略をやり切る組織」の大前提は、組織の内因性動機に火をつけることである。そしてそれを継続的に行おうとするには、心理学教授のハーツバーグ氏が述べた通り、仕事をすることによる自己実現の達成感や自他承認などを向上させることである。給与などの金銭的動機ももちろん大切だが、それはあくまでも一時的な衛生要因にすぎないのである。

だからこそ、我々のコンサルテーションにおいては、戦略遂行上の具体的なタスクやシステムをメンバーと一緒に考えながらも、同時に、「戦略の自分にとっての意味」や「戦略をやり切ることで自分自身は何者になりたいのか」を問い続けている。

 

その両面が一致した時に初めて戦略が社員のものになり、その瞬間こそが我々の達成感である。

 

平尾貴治

アージリスからの学び(1) 「権限貢献説」

弊社では「組織開発(OD)の古典を勉強しよう」という趣旨で定期的な読書会をスタートさせました。

先日、第一回目を行ったのですが、テーマは大友立也氏の「アージリス研究2:組織政策論」の第一章の読み合わせでした。

クリス・アージリスは、ハーバード大学の教育・組織行動額の教授で、昨年の震災の想定外問題で再び注目を受けた「ダブル・ループ学習」の提唱者としても有名です。
さて、今回第一章の中で、私が特に「ハマった」のは、アージリスの「権限貢献説」の話でした。
これは、それまでの「権限機能説(=組織の各部分は自分を維持すると同時に自分の機能を果たすのに必要なだけの他への影響力を持っている)」というより発展させたもので、次の2つの特徴があります。
①仲間も自分も上位の体制に貢献する
②①があるから仲間も自分も助け合う関係になりうる

なぜ、これがハマったかというと、実際にお手伝いしてきた複数の会社を振返ると、「権限」の問題がキーになっていることが多かったらからです。
大きな経営課題である次世代リーダー育成を行う際に、組織そのもの目的・目標を明確にして、そこに対する各人が貢献できるための「権限」を明確にしていくことで、驚くほどの変化と成長が見られたのです。

ここでのポイントは、「リーダーは自部門や部下に対して何をすべきか」ではなく「上位概念(組織の目的)に向けてどのように貢献する権限があるか」を問うたことです。

そして、「責任」ではなく「権限」を考えたことです。
責任は、どこか「上から与えられるもの」という感覚に陥りがちです。しかし一方で、権限は「自分が主体となって行使できるもの」だからです。
こんなことを改めて考えさせてくれるとは、やはり古典の力はすごい!と思う今日この頃です。
平尾

ダイアログ・イン・ザ・ダーク

先日、ダイアログ・イン・ザ・ダークを初めて体験いたしました。

ドイツの哲学博士アンドレアス・ハイネッケ氏の発案されたもので、「完全な暗闇」の中でチームで行動するプログラムです。

単にアドベンチャーとしても優れていますし、チームビルディングや自分の在り方など内省することもできる素晴らしいものでした。

 

実は今回は、弊社のファシリテートする2日間のプログラムとのコラボレートで実施をいたしました。

組織の価値観を揃えていく話合いをした後に、ダイアログ・イン・ザ・ダークを実施し、

翌日に改めて組織の価値観や自分とチームとの関わりなどを話し合うというのが全体のスケジュールでした。

参加者からは、

「暗闇の中では黙った瞬間にその人の存在はないことと同じになる。

日常の討議の中でも自分の主観を述べないということは、そこに存在しないのと同じではないか?

あるいは、チームとして発言のない人を積み残して前に進んだ時、その人の存在を認めていないのと同じことをしているということだ。

我々は暗闇に仲間を置いてきぼりにしているのではないだろうか。」

といった非常に深い気付きがありました。

 

私自身にとって最も強烈だったのは、ダイアログ・イン・ザ・ダーク終了時に闇の世界から日常に戻る時に「寂しさ」を強く感じたことです。

手をつなぎ、声を掛け合い、相互援助し合った闇の世界の方が、実は「温かく濃い」関係性が存在していた。

改めて、我々には見ているつもりで見ていないことが非常に多いのではないか、を考えさせられました。

 

今後も機会があれば、私達の「組織と個人のスタンスを明確化する」プログラムとダイアログ・イン・ザ・ダークのコラボレートは実施してまいりたいと思います。

興味のある方は是非ご連絡ください。

 

平尾貴治

日経産業新聞にインタビューが掲載されました

3月14日の日経産業新聞に、インタビューが掲載されました。

記事「震災から1年 機能するBCPを目指す」
震災を期に、「本当に機能するBCP(事業継続計画)」が求められるようになっており、その特集記事を掲載するにあたって、「組織マネジメントの観点」からの意見を聴かせてほしい、ということで今回のお話になりました。

昨年の反省から、各社ではより綿密に計画を作り上げたり、システムやルールを厳格にするなどの施策をうっていらっしゃいます。しかしそれだけでは、結局「想定外」は数多く生まれてしまうのではないでしょうか?
私達は、様々な業種の企業をお手伝いさせていただく中で、「平常時より組織内に“違和感のある話し合い”のできる規範(刺し合える文化)があってこそ、想定外を極小化できる」という結論に至りました。

そんな思いをインタビューではお話しさせていただきました。
是非ご覧ください。
シー・シー・アイ 平尾